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近畿地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]

フェスティバル・ブース出展(後編:漁具の素材の移り変わり)

2022年12月28日
田辺 戸口協子
みなさま、こんにちは。
吉野熊野国立公園 田辺管理官事務所の戸口です。
今年度、冬期天気予報では全国的に強い寒波が何度も訪れるとされており、12月にあまり雪の降ることがない田辺地域でも、既に雪がちらつく日がありました。年末年始を控え、特に積雪の多い地域のみなさまのご安全をお祈りいたします。
さて、先月11月26日27日に、田辺市主催のイベント「生涯学習フェスティバル」が実施され、前編では「海岸漂着物」をご紹介しました。今回は展示後編の内容となる「漁具の素材の移り変わり」についてご紹介します。
(前編についてはURL: フェスティバル・ブース出展(前編:海岸漂着物) | 近畿地方環境事務所 | 環境省 (env.go.jp)もご参照をご参照ください)
 
紀南名物 うつぼ 漁具展示の様子
漁具を展示した理由は、海岸漂着物の中に漁具もよく見られる物であったことと、普段から海岸清掃を実施されている漁協のみなさまにより、漁具をご提供いただけたことです。
昔使われていた漁具と、現在使っている漁具を展示し、素材の違いとそのメリット・デメリットの解説を付けました。
 
まず「かご」について。昔のかごは竹・木を使って手作りされたものでした。
このかごは延縄の仕掛けを入れるかごとして使用されており、縁には藁を束ねたものが付けられています。
〔昔〕延縄の仕掛けを収納するためのかご
これは、延縄の針をひっかけ、縄が絡まないように収納するためのものです。現在はプラスチックのかごの縁にスポンジやゴムを付け、そこに切れ目を入れたもの使用しています。
〔今〕延縄の仕掛けを収納しているかご
次に、ウツボを獲るための仕掛けかごです。暗い閉鎖空間を好むウツボを獲るための仕掛けは、昔も今も、一度入ったウツボが出られない仕組みになっており、筒状空間の両側には円錐形の「もどり」を付けます。昔は材料に竹を使っており、筒部分ももどりの部分も全て竹細工でした。天然素材の竹のかごは水につける際には、かごを水底の凹凸などから守るため、周りにむしろを巻いた上で、おもりを付けていたそうです。
〔昔〕ウツボを獲るためのかご 〔昔〕もどり(もんどり)の部分
今のかごは硬化プラスチック製で衝撃にも強く、そのままおもりをつけて沈めて使います。「もどり」には切りカキがあり、ねじって止めることのできる仕組みになっています。
〔今〕ウツボを獲るための強化プラスチック製かごと、もどりの部分
現在使用されているこのもどりの部分は、海が荒れた際などには外れたか飛ばされたかしたものが海岸に漂着物として流れついていることがあります。
 
最後に、網です。今回展示したのはイセエビ用の網でした。(実は和歌山県はイセエビの漁獲量全国第3位!(2020))
現在の網は化学繊維(石油由来)を機械で編んだもので、かかったエビが逃げにくくするため “3重構造”になっています。
昔の網は、漁師さんが1本のタコ糸を結び編みして作るもので、“1重構造”でした。
昔の巻き網(1重構造) 今の巻き網(3重構造)
また、おもりとなる沈子は、現在では鉛が使われていますが、昔は鉛が貴重でなかなか手に入らなかったことから、屋根に使われている「瓦」の素材を使った沈子専用のおもりを瓦職人さんに焼いてもらっていたそうです。
現在と昔の沈子の重さを比べてみると、体積の大きい瓦の沈子の方が、体積の小さい鉛に比べて軽いことがよく分かりました。
どっちが重いでしょう?持ち上げて、重さを比べてみてね
そのため、昔の網には沈子がたくさん、密に付いています。
昔の沈子(赤)と今の沈子(緑)
沈子と対になる浮子については、現在はプラスチックやFRPなどの素材のものが使われていますが、昔は「木」を使っていました。その樹種は桐です。桐は成長が早く、また、水にも強くよく浮くため、浮子として使われていたようです。
昔の沈子 今の沈子
漁具が天然素材からプラスチックなどの石油製品に置き換わったのは、みなべ町では昭和30年頃であったとのことでした。
前述したように、自然素材でできた漁具はどれも、手間暇かけて作られたもので、大切に使われていたことが伺えます。また造形美にも優れたものでしたが、その反面、濡れたままで放置すると腐ることから、乾かす作業の必要があるなど、手入れに手間がかかり、現在のプラスチック製品に比べると不便なものでした。
プラスチック製品は、大量生産のため「安価」・「丈夫」で使い勝手が良く、自然素材からプラスチック製品に置き換わらざるを得なかったことが分かります。
今も昔も、漁具は海が荒れることで流出してしまうことがあります。しかし、その際に今と昔で異なることは、昔の漁具は天然素材であるため「自然に還る」けれども、今の漁具はプラスチック製品で「自然に還らない」ということです。
これは漁具に限ったことではなく、生活用品や様々なものに共通すること。
漂着ゴミの中で最も多い割合を占めるのは、プラスチックゴミです。
大量生産のため安価であり、購入しやすいプラスチック製品は、ともするといくらでも代わりが効くと考えられがちです。

便利な素材を使うようになった人間の責務として、プラスチックと人間社会がうまく付き合っていく他ありません。
前編でご紹介したように、漂着物の中には、実は自分たちの身の回りから流れ着いたものもあります。おもしろい漂着物の中から宝探しを楽しみつつ、海岸をきれいにする関係人口が増えると、今後も心地よく自然を楽しみ続けられると思います。
100年後も豊かな自然と共に人間の暮らしを保てるように。
Save the Ocean  Save the Earth
 
漂着物の記事については他にも令和4年5月24日:ビーチクリーンアップin南紀白浜 | 近畿地方環境事務所 | 環境省 (env.go.jp)がございます。ご参照いただけると幸いです。

謝辞:今回、この展示にご協力いただいた紀州日高漁業協同組合・南部町支所のみなさま、本当にありがとうございました。