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近畿地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]

熊野地方に由来する植物について

2025年10月10日
熊野 湊 英也

こんにちは、吉野熊野国立公園管理事務所の湊です。やっと秋らしい気候となり、どんどん外に出かけたくなりますね。先日、熊野川の巡視と植物調査を実施しました。例年通り、同じ場所に同じ植物が観察できると何かとても安心します。ひとたび水害が発生すると、植物相が激変してしまうので、また2011年のような大水害が起こらないことを祈るばかりです。

夕刻の熊野川
太陽の光が差す熊野川

最初に目にしたのは、白い花が印象深いセリ科の「カワゼンゴ」。見た目がセリなので見覚えがあるのですが、中々名前が出てきません。川沿いに生えているから頭にカワが付くのは良いのですが、ゼンゴは出てきません。中国の前胡(ぜんご)という薬草に似ているからだそうです。植物の名前を覚えるのは本当に大変です。

カワゼンゴの白い花
白い花が印象深い「カワゼンゴ」

続いて、「キイイトラッキョウ」。まだ開花には1か月ぐらい早い時期だったので、ラッキョウか、ネギかという印象です。ところが花は、見た目からは想像しにくい紫色のまるで花火のようなきれいな花を咲かせます。

9月下旬のキイイトラッキョウ
「キイイトラッキョウ」は、このあと30日後ぐらいに紫の花が咲く
紫色のキイイトラッキョウの蕾と花
花火のような花(蕾)が目を引く「キイイトラッキョウ」 (2024年10月下旬撮影)

この名前、何か引っかかりませんか?頭に「キイ」とついています。そうです「紀伊半島」「紀伊の国」の「キイ」です。他にも、「キシュウギク(種名:ホソバノギク)」や「ドロシモツケ」など、この地方に由来する名前が付いた植物が熊野川沿いでは良く見られます。

キシュウギクの花
「キシュウギク」は、その名のとおり紀州地域にのみ分布する
花が終わり実をつける秋のドロシモツケ
「ドロシモツケ」は瀞峡(どろきょう)のドロに由来
ドロシモツケの花
初夏のころに可愛らしい花の塊をつける「ドロシモツケ」(2024年5月下旬撮影)

貴婦人の花ともいわれる「キイジョウロウホトトギス」は熊野那智大社などで花が咲くとニュースなどで取り上げられたりするほど見ごたえのある花ですが、絶滅危惧種(環境省レッドリスト)※に指定されており、残念ながら私は、野生で自生しているものは見たことがありません。約20年前に、自然環境に関わる仕事をしていたときに初めてこの花を知り、自分が住んでいるこの熊野地方に、こんな可憐な花が自生しているのかと驚いたことが、とても強く印象に残っています(その後、自然保護に対する意識がより高まり、今の仕事に就いているといっても過言ではありません。)。

花が満開のキイジョウロウホトトギス
「キイジョウロウホトトギス」もこの地域を代表する植物(写真は栽培のもの:2024年10月下旬撮影)

この熊野地方が好きな人、自然に関心を持つ人、自然を守りたいと考える人をどうすれば増やすことが出来るか日々考えています。その一環として、アクティブ・レンジャー日記にて、吉野熊野国立公園の自然情報を中心に今後も発信していきますので、ブックマーク(お気に入り)登録お願いします!
※今回紹介した植物は指定植物に指定されているため、吉野熊野国立公園特別区域内において、許可なく採取・損傷することは禁止されています。また、「ドロシモツケ(シモツケ)」を除く4種は環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種(Ⅱ類)に指定されています。