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近畿地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]

アカウミガメの孵化率調査で感じた衝撃(1)

2024年11月15日
田辺 戸口協子
みなさま、こんにちは。吉野熊野国立公園 田辺管理官事務所の戸口です。
涼しいを通り越し肌寒い日が続くこともありましたが、ここのところは一転、未だ汗ばむ日が続き、本当に11月なのか?と思う紀南地域です。衣替えの季節も過ぎたはずなのに…
 
今回はみなべ町の千里の浜でアカウミガメが産卵した卵から、どれだけの子ガメが孵ったかを調べることを目的に、日本ウミガメ協議会・みなべ町・LION株式会社の3者で合同実施した孵化率調査に同行した様子をお伝えします。
 
みなべ町の千里の浜は、本州最大のアカウミガメの産卵地として、昔から多くのアカウミガメが上陸していた記録が残っています。アカウミガメは初夏の夜、メスのみが産卵のため、砂浜に上陸します。アユやサケが、自分が生まれた川に戻って繁殖するように、多くのウミガメも生まれた浜に戻り産卵すると言われています。
メスは砂浜に上陸すると、産卵に適した場所を探して移動します。そして、適した場所を見つけると、砂浜に約50cm~1m程度の穴を掘り、一つずつ卵を産みます。
孵化率調査
産卵の様子(写真提供:みなべ町)
孵化率調査
産卵中の親ガメの様子(写真提供:みなべ町)
一度の産卵で産み落とされる卵は100個程度で、卵は40日程度砂浜で温められ、時が来ると砂の中で孵化します。孵化も産卵と同様に安全な夜に行われます。孵化した子ガメは時間をかけて砂を掻き分け、地表面まで上がってきます。子ガメはよちよちと、月の光や月に照らされる海の明るさをたよりに進み、波打ち際から海原に向けて旅立ちます。
孵化したあと、砂浜にはウミガメの卵の殻が残ります。孵化しなかった卵も、砂の中に残ります。
 
孵化率調査に先だって、千里の浜ではアカウミガメの産卵上陸調査を実施しています。調査員が1.5kmある千里の浜を毎夜歩き、いつどこで上陸・産卵があったかを記録しています。産卵を確認したら、卵のそばに砂の中の温度を記録するためのロガーを一緒に埋め、さらに動物の捕食から守るための保護ネットを卵塊の上に設置します。孵化率調査ではロガーをたよりに砂を掘り、埋まっている卵の殻を取り出して数えるという地道なものです。
孵化率調査は、孵化を妨げないよう、産卵時期毎に2~3回に分け、確実に孵化した後となる晩夏から秋に調査期間を設けています。
孵化率調査の手順を写真でご紹介します。
孵化率調査
まず、埋まっているロガーを機械で探知する
孵化率調査
掘り始めは豪快に
孵化率調査
保卵の保護ネットが見えてきた
孵化率調査
保護ネットを外して
孵化率調査
手や小さなスコップでやさしく掘ると卵が見えてきた
孵化率調査
掘り出した卵の殻を並べて数えている様子
孵化率調査
孵化したことが分かる破れた卵の殻と、丸いのは孵化まで至らなかった破れていない卵
日本ウミガメ協議会さんによると、ウミガメの孵化率は環境によって大きく異なるそうで、平均的な数値を示すのが困難ですが、80%から90%であれば極めて高いものになります。千里の浜での孵化率は平均的に40%程度で推移しているそうが、ここ数年においては30%に満たない年が続いていたところ、今年はさらに10.7%と記録的に低く、孵化に至らなかった卵が多くありました。
産卵数も少なくなっている中で、今年の孵化率が大きく下がったことは大きな衝撃でした。
 
次回は、孵化率調査から見えてきたことについて、掘り下げてご紹介したいと思います。