アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]
近畿地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、吉野熊野、山陰海岸、瀬戸内海国立公園があります。
みなべ町沿岸で見つけた未確認ライン(跡)
2022年06月21日
田辺
近畿地方環境事務所
みなさま、こんにちは。
吉野熊野国立公園 田辺管理官事務所の戸口です。
紀伊半島では、田植えはGWあたりから始まり、田植え前線は北上していきます。そろそろ和歌山県全域に広がる頃です。
近畿エリアは梅雨に入り、ホタルの乱舞が見られ始めています。
「梅雨」とは故事にちなんだ雨の名前なのだそうです。室町時代に京都の賀茂別雷神社(現在の上賀茂神社)の例祭に、後奈良天皇が梅の実を奉納し祈願したところ、雷と共に雨が降り始め、干害に苦しんでいた人々に五穀豊穰をもたらしたことから、人々の間でこの雨を「梅雨」と呼んだことが語源となるそうです。今では「6月6日は梅の日」と認定されています(紀州梅の会が申請、日本記念日協会が認定:2006年)。
田辺管内でも梅の実が大きくなり、きれいに紅をさして収穫時期を迎えています。
さて、少々前置きが長くなりましたが、今回は公園内での出来事で思いがけず感激したことについてお伝えしたいと思います。
JRきのくに線では、一部、海の間際を通過する場所があります。通勤の一部でその区間を通過する際は、毎日異なる海の色を見せてくれる車窓からの景色を堪能しています。
中でもみなべ町以南の沿岸部は吉野熊野国立公園に指定されています。
"ながら巡視"として、いつも海岸をチェックしていますが、5月下旬のある日、公園の北端にあたるみなべ町のとある海岸で、川沿いにキャタピラーのような何かの跡がついているのを発見しました。内陸から小さな川が海へ流れ込んでいる砂浜の部分です。
同じ町内にある千里の浜は、本州一のアカウミガメの産卵場であることから、1番に「ウミガメの足跡では!?」と思いましたが、直後に「そんな訳がない」と思い直しました。その跡が川から砂浜に上がり、また川に入るような軌跡を描いていたからです。
ウミガメは海水の生き物ですから、淡水が流れ込むようなところには好んで行かないであろうことが推察されたためです。
小型バギーが通った跡などかもしれないと思い直していました。
その後も、車窓からは毎日その跡が見えていました。毎日、目にしているとやはり気になり、発見から3日後に直接現地へ巡視に行ってきました。
私は昔、石垣島でウミガメの産卵上陸の跡というものを一度だけ見たことがありましたが、今回見た跡については確証を持てずにいました。
その中で、丸で囲った部分が何なのか気にもなりました。そこで、みなべ町千里の浜でアカウミガメ調査をされている詳しい方や有識者に写真を添えて確認していただいたところ...
なんと、「間違いなくアカウミガメの上陸跡である!」との返答でした!しかもこの場所では今年初確認であるとのこと!!
産卵のため上陸中、または産卵中のウミガメの様子を観察したことがない私は、思いがけない発見をしたことに大変感激し、かなりテンションがあがりました。
ちなみに、私が気になった丸で囲った部分は、産卵しようとして穴掘りをチャレンジした跡なのだそうです。もし産卵しているとしたら、こんなに分かりやすい跡は残さず、カモフラージュされて分かりにくくなっているそうです。
その後、毎日、車窓から新たな足跡を探しています。
個体によっては100kgもある巨体を引きずり、浮力からはなれて上陸し産卵するという不思議な生態をもつウミガメ。知れば知るほど興味は尽きることがありません。
いろいろな要因が考えられるようですが、みなべ町では近年、ウミガメの産卵数に大幅な減少傾向が見られます。
ウミガメの産卵は夜間に行われます。人が夜の浜を歩き回ったり、懐中電灯を使ったりすると、上陸をやめ、卵を産み落とす前に海に帰ってしまいます。ウミガメ保護のため、産卵期から子ガメが海へ旅立つ期間である5月から10月頃までは、夜間の浜での活動はお控えいただきますよう、ご協力をお願いいたします。
※みなべ町千里の浜は、全域が通年で乗入れ規制区域となっております。車両やバイクはもちろん、船舶の上陸も規制の対象となりますので、ご注意ください。
また別の機会には、ウミガメを通して環境問題に触れたいと思います。
お楽しみに♫