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近畿地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]

千畳敷のユビナガコウモリ

2021年07月26日
田辺 戸口協子

みなさま、こんにちは。

田辺管理官事務所の戸口です。

近畿は梅雨が明け、夏空の広がりと共に一気に気温が上昇し、クマゼミの大合唱が暑さをさらに際立たせています。

先日、和歌山県のレッドデータブックで準絶滅危惧種に分類されているユビナガコウモリを観察するため、夕刻の千畳敷に行ってきました。

千畳敷は浅海に堆積した地層が隆起した海食台で、国の名勝指定されている観光地です。

01‗昼間の千畳敷(2020年11月12日撮影)
昼間の千畳敷
02‗千畳敷からの夕日(2021年7月19日撮影)
千畳敷からの夕日

南の海で台風6号が発生しており、まだ紀伊半島から遠く離れているものの、大きなうねりがすでに届いていて、夕暮れ時には岩にぶつかった波が、繰り返しダイナミックに高く上がっていました。

03‗うねりによるダイナミックな波(2021年7月19日撮影)
うねりによるダイナミックな波

千畳敷の端には白浜町の天然記念物にもなっている海食洞(洞窟)があり、近畿地方では唯一のユビナガコウモリの繁殖地となっています。この洞窟に、6月中旬から妊娠したメスのみが飛来し、出産と子育てをします。7月下旬から子どもも飛び始め8月には各地の洞窟へ散らばっていくようです。

レディースクリニックにも似たこの洞窟は、地元では「コウモリ穴」とも呼ばれるそうです。

日没直後から、ユビナガコウモリがエサ(蚊などの小型昆虫)を求めて海食洞から周辺の沿岸林などに向かって飛び立つ様子が見られます。観察時、私たちは海食台の上にいたのですが、それは手品のトランプがシルクハットから不規則に吹き出続けるような様子にも似ていて、高速で飛び出してくるのが観察できました。数が多いことと、飛行スピードが速いことで、観察している私たちにぶつかってくるんじゃないかと思うくらいです。実際は超音波で周辺を正確に把握しながら飛んでいるので、密でもぶつかることはまずないと思われますが。

周辺が薄暗くなって空を見上げると、千畳敷の駐車場の一画では、飛び交うコウモリのシルエットが相当な数見られ、圧倒されました。(速すぎてピントがとても合わないので、この写真からイメージしてみてください。)

04‗飛び交うユビナガコウモリ1(2021年7月19日撮影)
05‗飛び交うユビナガコウモリ2(2021年7月19日撮影)
飛び交うユビナガコウモリ

親コウモリは天井からぶら下がっている無数の子どものなかから、自分の子どもを見つけてエサを与えます。地元でユビナガコウモリの観察を長年実施されている方のお話によると、生まれた無数の子どもが天井からぶら下がっているのですが、中には掴まる力が弱く、落ちてしまうものもいるようです。下ではヘビが待ち構えていて、落ちるとヘビのエサになってしまい、生まれたてから弱肉強食の世界です。上から落ちてくるのは子どもだけでなく、そのヘビがいる底部分はユビナガコウモリの糞が50cmほど積もっているそうです。

ユビナガコウモリのスペクタクルは8月末まで続くので、虫刺され対策、懐中電灯などを持参して、千畳敷の駐車場でまだ明るいうちに安全な場所を探してから観察してみてくださいね。夢中になると、星が見えるくらい暗くなってきますので、駐車場を通る車にもご注意ください。