アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]
田辺市のひき岩群で見つけた秋
2020年10月27日抜けるような澄んだ青空、うろこ雲やすじ雲を眺めていると、どこからかキンモクセイの香りが漂ってきます。陽光の柔らかい秋の空気に包まれる日が多くなりました。
皆さま、こんにちは。田辺管理官事務所の戸口です。
先日、田辺市稲荷町にある「ひき岩群」へ巡視に行ってきました。
ひき岩群は、浅海に堆積したれき岩・砂岩・泥岩層からなる地層が隆起し、柔らかい泥岩が大きく浸食した一方で、硬い砂岩がさほど浸食されなかったことから、下の写真のようなケスタ地形が形成されています。ここは標高80~150mの丘陵地で、浸食によってむき出しになったれきを含んだ厚い砂岩層が、南北方向に約30度程度傾いて折り重なっているように見えます。
「ひき岩群」という名称は、その砂岩からなる奇岩群が天を仰いでいる「ヒキガエル」の姿に似ていることに由来しています。傾斜角度が約30度ということと砂岩の色が、まさにヒキガエルが群れをなして天を仰いでいるようであり、圧倒される景観となっています。また、ヒキガエル以外にも様々な形をした奇岩を随所に見ることができます。
ひき岩群のケスタ地形。展望地からは田辺湾まで見渡せる。 |
天を仰いでいるかのような3匹のカエルたち |
恐竜の背骨 | 象の背 |
ひき岩群の乾燥した岩山部分では、和歌山県の県の木であり、紀州備長炭の材料として広く利用されているウバメガシが見られます。この季節はウバメガシもドングリを実らせています。ウバメガシのドングリは2年かけて生産されたドングリで、枝先から少し内側のところに小さくかわいらしいドングリが実っているのが見られます。同じドングリでも、田辺市内の標高が少し高い場所で見られるアカガシのドングリと比べるとつぶらなドングリです。
ウバメガシとアカガシのドングリ |
ドングリの他にも、アケビやクリが実っていたり、紀伊半島の固有種であり絶滅危惧種となっているキイジョウロホトトギスが咲いたりと、紀南地方の秋の彩りを感じました。
アケビ(上)とクリ(下) | キイジョウロホトトギス |
また、あまり目立った存在ではありませんが、湿地ではホザキノミミカキグサという植物が花を咲かせていました。これは日当たりの良い貧栄養な湿地に生え、小型で紫色の花を咲かす多年生の食虫植物であり、和歌山県レッドデータブックでは絶滅危惧IB類に分類されています。食虫植物には、陸上で昆虫などを食べるものもありますが、この植物は水中のミジンコなどの微生物を捕虫袋に取り込んで自分の養分にします。かれんな花からは想像できませんが、実は肉食系の植物で、しかも水中生物を捕食する食虫植物を私は初めて目にしました。
ホザキノミミカキグサ |
このように、ひき岩群は全体が特異な岩山で乾燥しているところのように見えますが、内側には谷間がいくつも存在し、そこには湿地や滝など多様な環境が形成されており、その環境に適応した食虫植物などの貴重な植物を見ることができます。
小川のせせらぎと鳥や虫の声を聞きながら谷間を抜けて、壮観で魅力的なカエルたちに会いにぜひお越しください。