近畿地方のアイコン

近畿地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]

甲殻のない甲殻類【動物】

2013年10月08日
竹野
皆さんこんにちは
竹野の酒井です。
竹野の季節は秋になり、何をするにも良い季節になってきました。
山にハイキングに行ってハンモックを持ち込み、ちょっと良い弁当と好きな飲み物を楽しみながらハンモックで読書をする事が個人的にはオススメです。
何しろそれだけで食欲、スポーツ、読書の秋をすべて網羅する事ができますので。

さて前置きはこの辺にいたしまして。
今回は山陰海岸に棲む相当にマニアックな生物の話をさせて頂こうかと思います。

今回紹介するのは私が知る限り、山陰海岸国立公園に棲む生物の中で最も奇妙な特徴を持つ生物です。



それがこちら、
フクロムシ(袋虫)という“ほぼ”海に棲む甲殻類です。
“ほぼ”というのはモクズガニフクロムシという淡水に棲んでいるフクロムシがいるためです。円山川に生息しています。

ただのカニのじゃあないかと思われた方、この写真で見るべきはカニでは無く、お腹の辺りで目立つ黄色い物(赤丸で囲ってあるあたり)です。

これがフクロムシです。

なぜ、カニの腹にフクロムシがいるのかというと、フクロムシはカニに寄生しているためです。

寄生生物というと栄養やエサを他の生物から様々な方法で横取りして生きている生き物ですが、フクロムシの場合は、カニの中腸腺(肝臓と膵臓を合わせたような器官。カニ味噌やエビ味噌、イカのゴロが中腸腺です)に根のような器官を張り巡らせて栄養を吸い取ります。

フクロムシには大きな二つの特徴があります。

一つ目の特徴は寄生先の生物の生殖器を不能にさせる作用です。
フクロムシに寄生された生物は雄雌問わず、生殖器が不能状態にされ、雌ならば抱卵、産卵ができなくなり、雄ならば生殖器が破壊され、どんどんと雌化していきます。
なぜ、そのような作用をフクロムシが持っているのかというと、産卵や交尾には体力と栄養が多く使われるため、そうして使われる予定の栄養を奪う事が目的なのだそうです。

そして、二つ目の特徴は、寄生先の生物をコントロールする能力です。
具体的にはどういうことかというと、フクロムシをカニの卵とだ思い込ませるのです。
フクロムシが寄生している場所は本来、カニを抱卵する場所です。フクロムシはその場所に寄生し、カニにフクロムシをカニの卵だと思い込ませ、外敵から守ってもらったり、世話をしてもらったりしています。

ちなみにその他の例を挙げるとカマキリに寄生するハリガネムシやロイコクロリディウム(外国の生物です)等が宿主のコントロール能力を持っています。

頭が良いといいますか、狡猾といいますかなぜこんな進化を遂げたのか少々不思議です。
分類状は節足動物(骨が無く体を皮膚や殻で支え、関節のある生き物のこと。カニや昆虫など)のフジツボやカメノテの仲間に入るのですが、殻を持たず、触手を持たず、関節を持たず、本当に節足動物か疑いたくなるような体をしています。

ちなみにフクロムシ、山陰海岸では珍しい生物というわけでも無く、ごくごく普通に見ることができます。
海岸にいるイワガニやイソガニと言った緑がかった小型のカニを30匹ほども捕まえれば最低でも2~3匹程度は寄生していると思います。

「そんな奇妙な生き物がいるのならば見てみたい!」と思われた方は是非山陰海岸にお越しください。