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近畿地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [近畿地区]

ニホンジカの影響 【動物】【植物】

2010年12月16日
吉野
 皆さん、こんにちは。
吉野は相変わらず寒いのですが、底冷えする日が多くなっている気がしています。天気の悪い日には、雨とも雪とも言えない不思議なものが降ってくる始末です。皆さんのお住まいの地域ではいかがでしょうか。

さて今回は、大峯地区でのニホンジカの影響についてお伝えします。吉野熊野国立公園内でのニホンジカの影響と言えば・・・大台ヶ原が有名(?)ですが、大台ヶ原の隣にある大峯地区でも見られます。

写真:食害を受けたコウヤマキ(コウヤマキ科)

写真:樹皮剥ぎの跡がハッキリと見られる

 上の写真は、以前、下北山村(国立公園内)でニホンジカに樹皮を剥がされたコウヤマキの写真です。今まで、「コウヤマキの樹皮剥ぎはほとんどない」と聞いていたのですが、この周辺ではコウヤマキの樹皮剥ぎが多く見られ、この木も実にしっかりと樹皮が剥がされていました。樹皮剥ぎのコウヤマキを見ている最中にも、「ピュウ!」という警戒音を出しながらニホンジカが数頭逃げて行きました。
 大台ヶ原、大峯地区で見られる「樹皮剥ぎ」ですが、何が問題かと言うと、木が枯れてしまうことです。樹皮剥ぎが樹皮の一部でとどまれば、助かる可能性はあるのですが、幹を一周するように剥がされると、葉で光合成を行ってつくった養分を根に送れず、根で吸収した水分などを葉に送れなくなり、いずれ枯れてしまうのです。

写真:樹皮剥ぎによって枯れたコウヤマキ

コウヤマキは、コウヤマキ科に属し、世界中で日本にしか見られず(日本特産種)、1属1種の裸子植物(マツ、ヒノキなどの仲間)です。福島県より西から四国、九州に分布するといわれています。コウヤマキの名前の由来は、和歌山県の高野山に多く生育しているところから来ているようです。木材や庭木などとして利用されていますが、自生地は局所的のようです。吉野熊野国立公園内でも、吉野山に群落(※1)があり、県指定の天然記念物に指定されています。ただし、吉野山のコウヤマキ群落は自生地ではなく、木材として植えたもののようで、スギやヒノキと同じように、昔から人との関係が深かった木であったことが伺えます。
(※1)群落(ぐんらく)とは、異なる植物同士が関わり合い、ひとまとまりの集団になっていること。

 大台ヶ原ではニホンジカの個体数調整を行い(※2)、自然のバランスを戻すお手伝いをしているのですが、大峯地区では地形が険しいなど、個体数調整を行うには大きな問題がたくさんあるので、防鹿柵(ぼうろくさく)を設置するなど、他の手を使って自然のバランスを戻すお手伝いをしています。ニホンジカがすべて悪いわけでもなく、何事にも人が手を加えればすべてうまくいくというわけでもありません。しかし、新たな樹皮剥ぎを見る度に、自然のバランスの難しさについて考えさせられるのです。
(※2)2009年12月4日「大台ヶ原でのお仕事 【動物】【その他】」をご参照下さい。